
2026年9月10日、デジタル化・AI導入補助金(旧:IT導入補助金)の事務局から、IT導入支援事業者の登録取消が公表されました。
今回登録取消が公表されたのは、次の3事業者です。
| IT導入支援事業者 | 所在地 | 対象となっている登録年度 |
|---|---|---|
| 株式会社天時情報システム | 東京都中央区 | IT導入補助金2023後期・2024・2025 |
| 合同会社ⅢPOINTCONSULTING | 大阪府大阪市福島区 | 2023後期・2024・2025・デジタル化・AI導入補助金2026 |
| 株式会社YZ | 東京都中央区 | 2023後期・2024・2025・デジタル化・AI導入補助金2026 |
事務局によると、補助事業の実施状況を確認する中で「虚偽や不正その他不適切な行為が行われているとの疑義」が生じ、その内容を審議した結果、IT導入支援事業者として不適当と判断し、支援事業者登録とITツール登録を取り消したとしています。
ここで注意したいのは、「登録取消になった会社=犯罪が確定した会社」と短絡的に考えることではありません。
今回公式に公表されている事実は、あくまで事務局が交付規程に基づいて登録取消を行ったということ。
しかし、今回気になるのは、
「その会社を通してすでに補助金を申請・受給している企業はどうなるのか?」
ではないでしょうか。
自社が利用したIT導入支援事業者が登録取消になったらどうなる?
結論からですが、
「支援事業者が登録取消になった=その瞬間に自社の補助金も自動的に取消・返還」ではありません。
ただし、安心して放置していいという意味でもありません。
今回の公式資料には、
IT導入支援事業者の登録取消がなされた場合、当該IT導入支援事業者に係る全ての交付申請について、事務局は交付決定を取消すことができる
と記載されています。
「取消す」ではなく、「取消すことができる」。
支援事業者の登録取消と、各補助事業者の交付決定取消は分けて考える必要があります。
対象となる補助事業者には、今後の対応について事務局からメールで連絡するとされています。
支援事業者が取消対象になっているにもかかわらずメールが届かない場合は、事務局への問い合わせも案内されています。
自分の支援事業者がリストにあった場合
まずやるべきなのは、慌てて契約解除したり補助金を返したりすることではありません。
「申請マイページに登録しているメール」「迷惑メールフォルダ」「IT導入補助金事務局からの連絡」を確認したうえで、事務局から連絡が来ていなければ問い合わせるのが基本でしょう。
2026年9月10日時点で事務局が案内している問い合わせ先は、デジタル化・AI導入補助金事務局コールセンターの「0570-666-376」、IP電話等の場合は「050-3133-3272」です。
公式の登録取消一覧はこちらから確認できます。
すでに補助金を受け取っていたら返還になる?
すでに補助金を受け取っていたら返還になるのか?
可能性はあります。
ただし、これも登録取消を受けた支援事業者を利用していたという事実だけで、全員一律に返還が確定するわけではありません。
事務局は、交付規程や公募要領に反する事実が確認された場合、補助事業者側についても交付決定の取消、事業者名の公表、場合によっては警察への通報などの措置を取ることがあるとしています。
つまり重要なのは、
「自分が適正な内容で申請し、実際にそのITツールを導入し、正しい金額を支払い、申請内容どおり利用しているか」
です。
請求書、契約書、振込記録、導入したシステム、利用状況などは、改めて確認しておいた方がいいでしょう。

「業者に全部やってもらった」も注意が必要
もう一つ、割と知られていない注意点があります。
IT導入補助金では、申請者自身が行わなければならない手続きがあります。
事務局は現在、GビズIDなどを第三者に渡し、申請マイページの開設や申請手続きを代わりに行わせる行為も不正行為として明示しています。
「補助金のことは難しいので、全部こちらでやります」
これ、一見親切な営業に聞こえますが、何をどこまで任せるのかは確認が必要です。
最終的には、自社が何を申請しているのかを把握しておかなければいけません。
「実質無料」「あとでキャッシュバックします」は特に注意
これは今回の登録取消とは別に、事務局がかなり強く注意喚起している部分です。
現在の公式サイトには、
「キャッシュバック」「実質無料」などは不正行為の可能性があります
とはっきり書かれています。
例えば100万円のITツールを購入し、その金額をもとに補助金を申請したとします。
ところが後から販売会社や関係会社から、
「紹介料として30万円返します」
「コンサルティング料として返金します」
「キャンペーンなので実質自己負担ゼロになります」
などとしてお金が戻ってくる。
形式上は100万円を支払っていますが、実質的な自己負担は違います。
このような資金還流が問題になっています。
単純な値引きだけでなく、「紹介料」「協賛金」「コンサル料」など別の名目に変えたから大丈夫、という話でもありません。
デジタル化・AI導入補助金事務局「不正行為にご注意ください」
実際に何が起きていたのか。会計検査院が調査している
ここからは噂ではなく、会計検査院が実際に調査・公表した事例を見てみます。
2024年10月、会計検査院はIT導入支援事業について検査結果を公表しました。
令和2年度から4年度の間に、315事業主体が実施した383事業を検査したところ、41事業主体・55事業、補助金約1億4,756万円について適切とは認められない事態が確認されています。
その中でも、30事業主体・41事業、約1億812万円については、IT導入支援事業者や関係会社からお金を戻す「実質的還元」などによる不正が確認されました。
これは「補助金でトラブルになるかもしれない」という仮定の話ではありません。
実際に起きています。
【実例1】ECサイトの画像まで作っていたケース
会計検査院の報告には、かなり具体的な事例も掲載されています。
ある事業者はECサイトを導入したとして補助金を申請しました。
実績報告では、導入したECサイトの画面キャプチャも提出されていました。
ところが会計検査院の調査では、その画像が別のECサイトの画面に商品画像などを貼り付けて作った虚偽のものだったことが確認されています。
さらに、IT導入支援事業者側から「紹介料」などの名目で資金が戻され、自己負担額約414万円を実質的に負担していなかったうえ、さらに約300万円の利益まで得ていました。
この事例では、計646万8,000円の補助金について、交付の必要がなかったと会計検査院が判断しています。
かなり極端な例ですが、補助金制度で問題になる「実質無料」がどういうものなのかがよく分かります。
【実例2】そもそも申請したITツールと違ったケース
別の事例では、ECサイトやシステムを導入したとして補助金を受給していました。
しかし実際に確認すると、一方のECサイトは以前から存在していたものをリニューアルしただけで、補助対象として登録されていたITツールとは異なるものでした。
さらに別年度に導入したとしていたITツールは、会計実地検査の時点でもすべて利用・運用が開始されていませんでした。
このケースについても、計650万円の補助金について交付の必要がなかったとされています。

「国に登録された業者だから安心」とも言い切れない
今回の件で、利用者側が覚えておきたいことがあります。
IT導入支援事業者として登録されていることと、その会社の商品・提案・契約条件が無条件に安全であることは同じではありません。
そもそも会計検査院は、従来の審査についても問題を指摘しています。
IT導入支援事業者が確認していることを前提として申請内容を審査していたため虚偽申請を十分に検知できていなかったことや、ITツールの実際の機能・価格の妥当性を確認する体制などについて、改善を求めています。
現在はこうした指摘を受けて審査・不正対策が強化されています。
つまり、
「補助金対象だから買う」
「登録ITツールだから相場を調べない」
「支援事業者だから全部任せる」
という判断は避けた方がいいでしょう。
そもそも、補助金頼みのIT導入は悪いのか?
ここは冷静に考えて、補助金を使うこと自体は悪くありません。
条件に合う設備やシステムをもともと導入する予定があり、国の制度を適正に利用して最終的な投資負担を減らせるのであれば、合理的です。
実際、中小企業庁の過去の調査では、ITツール導入企業について、一人当たり売上高の増加や勤務時間短縮、労働生産性向上といった結果も報告されています。
一方、会計検査院は後年、労働生産性などの報告内容や確認方法に問題があり、事業の効果を正確に把握できていなかったとも指摘しています。
ですから、
「補助金は素晴らしい」とも「補助金なんて使わない方がいい」
とも、一律には言えません。
見るべきなのは、その投資自体に意味があるかどうかです。
私たちなら「補助金がなくても買いますか?」を一度考えます
ホームページやITの相談を受ける立場として、一つおすすめしたい考え方があります。
それは、
「もし補助金が0円だったとしても、そのシステムをその価格で導入しますか?」
と一度考えてみることです。
YESなら、補助金を利用する価値は十分あります。
NOなら、一度立ち止まってもいいかもしれません。
例えば、
通常なら月1万円のサービスなのに「補助金対象プランでは月3万円」。
本来30万円程度で十分な仕組みなのに「補助金が出るので100万円のプランがおすすめ」。
必要としていなかった機能まで、「どうせ補助されるから」と追加する。
これでは、補助金を利用することが目的になっています。
本来は逆です。
「解決したい経営課題がある → 必要なITツールを選ぶ → 条件が合えば補助金を使う」
という順番です。
補助金から考え始めると、
「補助金が使える商品から、何を買うか選ぶ」
という逆転が起きやすくなります。
補助金は後払い。資金繰りにも注意
もう一つ勘違いしやすいポイントがあります。
デジタル化・AI導入補助金では、交付決定を受けた後に契約・発注・支払いを行い、その後、実績報告や確定検査などを経て補助金が交付されます。
交付決定前に契約・発注・支払いをしてしまうと、補助金を受けられません。
つまり、
「100万円のシステムを30万円だけ用意すれば買える」
というような制度ではありません。
いったん自社から代金を支払える資金力も必要です。
補助金の入金時期まで含めて資金繰りを考えておく必要があります。
2026年は「ホームページ制作」はIT導入補助金の対象外
千葉ホームページ相談室として、ここは特に書いておきます。
ネット上では現在でも、「ホームページ制作にIT導入補助金が使えます」という古い記事を見かけます。
しかし、デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠では、ホームページ制作は対象外です。ECサイト制作も含めて対象外とFAQに明記されています。
現在の制度は、基本的に事務局へ登録された業務用ソフトウェアや、それに付随するオプション・導入支援などを対象とするものです。
ですから、
「2026年のIT導入補助金を使えば普通のホームページが安く作れます」
という営業を受けた場合は、「何が補助対象なのか」を具体的に確認した方がいいでしょう。
ホームページ制作費そのものと、別の補助対象ITツールを混同しないことも大切です。
補助金を使う前に確認したい7項目
ITツールの導入を検討しているなら、最低限次の点は確認しておくと安心です。
- 補助金がなくても必要なITツールなのか
- 補助金適用前の価格は相場から大きく離れていないか
- 契約する会社は現在も登録されたIT導入支援事業者か
- 導入するITツールも正式に登録されているか
- キャッシュバック、紹介料、協賛金などの話がないか
- 自分が申請内容を確認しているか
- 契約書・請求書・支払記録・システム利用状況を保存しているか
特に、
「実質無料」
「絶対に採択される」
「申請は全部こちらでやっておきます」
といった説明が出てきたら、その場で契約せず、制度を確認した方がいいでしょう。
もし「知らないうちに不正に関わっていたかも」と気づいたら
これについても公式な手続きがあります。
現在の事務局は、補助金の自主返還を受け付けています。
不正であることを知りながら関与した場合は「自己申告書」を提出する仕組みで、返還額には加算金が課されます。
一方、不正であることを知らずに関与してしまった場合については、別途「誓約書」を提出する手続きが設けられています。
ただし、「支援事業者が登録取消になっていた」というだけで、すぐ自主返還すべきという意味ではありません。
今回の登録取消対象事業者から支援を受けている場合は、まず事務局からのメールを確認し、必要に応じて事務局へ問い合わせるのがよいでしょう。
【まとめ】補助金は「目的」ではなく「手段」として使う
今回のIT導入支援事業者の登録取消を見て、
「やっぱり補助金は危ない」と考える必要はありません。
一方で「国の補助金だから安心」「登録された業者だから間違いない」とも考えない方がいいでしょう。
会計検査院によって億単位の不適切な交付が実際に確認され、現在も事務局による調査や登録取消が続いています。2025年には中小企業庁自身も、「多数の不正受給事案が明らかになっている」として調査実施を公表しました。
だからこそ大切なのは、制度そのものを怖がることではありません。
自社に本当に必要な投資なのか。
その価格は妥当なのか。
補助金がなくても導入したいものなのか。
この3点を先に考えることです。
ホームページでも、業務システムでも同じです。
「補助金があるから作る」のではなく、
「事業に必要だから導入する。そのうえで利用できる制度があれば、適正に利用する」
くらいの順番が、結果として一番安全ではないでしょうか。
千葉ホームページ相談室では、特定のシステムや制作方法ありきではなく、予算や事業規模、目的を確認しながら、ホームページやWeb活用についてご相談いただけます。
「そもそも今ホームページにお金をかけるべきなのか」「既存サイトを直すだけで十分なのか」といった段階でも構いません。
必要のないものまで作る必要はありません。
参考・一次情報
IT導入支援事業者の登録取消について(デジタル化・AI導入補助金事務局)
不正行為にご注意ください(デジタル化・AI導入補助金事務局)
Self-check
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